次世代の最強組織に進化する意思決定スキル

読んで欲しい人

読んで得られること


スクラムを生み出したサザーランド博士が強く影響を受けた、ジョン・ボイド大佐の戦闘ドクトリンをビジネスに活用する考え方をまとめた名著です。

本書はOODAループの「What」と「Why」を掘り下げた名著ですが…「How to」本ではありません。一定期間スクラムを実施した後に読まないと、中身が頭に入ってこないと思います。更に「戦争の話」も多いので興味のない方は…読み解くのに少し苦労するかもしれません。しかし多少時間がかかっても読み解く価値のある一冊だとオススメします。

PDCA(PDSA)サイクルという言葉は、今や誰でも知っているかと思います。「PDCAを回さないと」という言葉は「ちゃんとマメに振り返らなきゃね」程度に使われていることが多い気がします。私はスクラムを「PDCAを仕事に取り入れるフレームワークの一つ」と紹介することがあります。スクラムには「透明性と検査と適用」という3本柱があり、PDCAをマッピングすると…

となります。一方、OODAループは以下のように定義されます。

これだけ聞くと…何だか…言葉遊びっぽささえ感じますよね。しかししっかり本書を読み解くと…大きな違いがわかるかと思います。

本書では、極限までループの回転速度が速ければ速いほど…戦闘でもビジネスでも成功確率が上がると言っています。Orientの段階でDecideする必要がないと判断したら…一気にActまで進めるOOAにすべき(その分、回転速度が上がる)とも書かれています。暗黙知をフル稼働させてDecideを減らす重要性を説いています。柔道の試合で。「よし…ここで一本背負いだ!」とDecideしてActするのではなく…Decideをショートカットできるところまで鍛錬せよ…ということですね。仕事でも同じことが言えると思います。「アジリティを高める」と何度も表現されていますが…まさにアジャイルです。

PDCA(PDSA)は「タスクベース」で回す考え方であることに対して、OODAループは「ビジョンベース」の考え方になります。ビジョン…つまり方向性だけ定めて…変化しながら全力で向かうイメージです。目的地に向かって自転車を漕ぐのに似ているかもしれません。ウォーターフォールであれば「目的地に着くまでの…一挙手一投足を計画してから出発する」のに対して、PDCAであれば「次の交差点までの計画を立てて、都度見直す」となり、OODAループでは「自転車を走らせながら、信号や道路状況を観察・判断し…目的地に向かう」のだと思います。

「OODAループ」は「PDCA」の「CDA」の部分でもある…という説明もありました。これをスクラムに当てはめると…こう言えるかもしれません。

Observeの大切さの話も重要です。Reportではないんですよね。報告させちゃうと…報告したいこと(報告して欲しいこと)に偏って、本当に必要な情勢判断が難しくなります。上司は部下に「報告書を書かせる」より「自ら観察に行く」べきだとする、スクラムの考え方にも通じます。

ビジョンの大切さもしっかり語られています。戦争であれば、ビジョン(=方向性)は部隊の生死を分けます。ビジョンの適切な作り方の紹介も参考になります。深く考えずに数値目標を入れたりすると…それが一人歩きして愚かな行動が生み出されがちです。SDGs的な美辞麗句でも刺さりません。

戦略の方向性における「正と奇」(孫子より)の話も興味深いです。奇策は当然前例がない訳でこれを「他社事例は?」などと追求していたら正攻法を選ぶしかなくなり、戦いに勝てません。正に大企業病ですね…。また、単に「正攻法と奇策」ではなく…「相手が奇策を見破っているなら、正攻法が奇となる」わけです。この考え方はProduct Ownerが優先順位を考える際にも役立ちます。

これらのベースには「未来を見通すことはできない」という考え方があります。ウォーターフォール型はそもそも無理があるのだと…ソ連の計画経済の崩壊が表していると何度も出てきます。優秀な官僚でも見通せないのだからこそ、相互信頼を深め、自己組織化が大事になってくる…そんな話も出てきます。

制約理論はOODAループに内包できる」「トヨタ生産方式から影響を受けた」「魅力品質とは?(RPO研修でも出てくる狩野モデル)」といった表現も多く…色々繋がっているなぁと通じます。私は「誰が最初に言い出した?」「どの理論が一番正しいのか!」という点には興味がないので、「とにかく使えるものを積極的に取り入れる姿勢」を大事にして…本書の教えを活用しています。

スクラムに活用できる要素が対象に詰まった良書です。是非読んでみていただきたいです。

本書はオーディオブックで聞くのもオススメです。