企業の究極の目的とは何か

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読んで得られること


スクラム研修でも紹介される「制約理論」の原典。ビジネス小説のスタイルで書かれているベストセラーです。

ザ・ゴールとは「あらゆる企業が目指す唯一のゴール」のことです。「そりゃ利益でしょ…なんでそんなに回りくどく描くの?」と思ったりもしましたが…確かに間違ったKPIに振り回されて…KGIを見失っていることは、よくありますよね。

制約理論って言葉がシンプルすぎるのでピンと来ないですが…「制約=障害…を取りの除く」というとわかりやすいですよね。障害をボトルネックというともっとわかりやすいと思います。でもゴールドラット博士が「ボトルネック理論」と言わなかったのは、本書を読み進めると理解できると思います。機械や個人のスキルが「ボトルネック」になっている…ということより、「組織のポリシー」…つまり、染み付いたルール…マインドセットや文化がボトルネックを産む要因になっていることを表したかったのかもしれません。

著者のゴールドラット博士は、大野耐一さんのトヨタ生産方式に強く影響を受け、大野さんをニュートンとガンジーに並ぶ3大ヒーローだと語るくらいリスペクトしているそうですが、確かにトヨタ生産方式を体系化した…という内容です。興味がある人はぜひ両方読んで欲しいです。

トヨタ生産方式の中で耐一さんは、チェンマネの難しさを語っていますが…ゴールドラット博士も、チェンマネの壁のブレークスルーとしてビジネス小説を発案したことを強く感じる内容です。ですので「スクラムをある程度理解し、より深く学びたい」…チェンマネの壁を超えている人にとっては「このメロドラマ…必要?」と感じるかもしれませんが、そんな方にはコミック版をオススメします。

ゴールドラット博士も、トヨタ生産方式に影響を受け、物理学者としてのアプローチで体系化し…実践するためのソフトウェア『OPT」を開発し販売し成功しました。しかしそれは先進的な一部の大手製造業にしか受け入れられず…つまり「チェンマネの壁」を超える方法を模索する中で「ビジネス小説」が生まれたそうです。本書の中でも主人公のアレックスは「チェンマネの壁」と戦っています。いつの時代もチェンマネって一番苦労するみたいですね。

ソフトを売るために作った本が、本だけで成功する…ソフトでできることよりもっと大きな可能性を見出してしまい…自らの成功体験(=ソフトウェア販売)を捨てて、次のビジネスに進めたゴールドラット博士は…本当にすごい人だと思います。

本編で出てくる「赤と緑の札」は…スクラムで言う優先順位の重要性…トヨタ生産方式のカンバンそのもの…と思いつつ、最終的に「劇的な効果を産んだ札が…改善が進むとむしろ無駄になっていた…」という展開に…改善は終わりがない…サザーランド博士のいう「幸福のバブル」の怖さを感じました。

本書を読んでいると…横文字の共通理解の大事さを考えさせられました。

例えば「Process」という言葉。Google翻訳で検索すると「処理」と出ます。正しいですけど…ちょっと違和感があります。
本書の中で「継続的改善プロセス」という言葉が出てきます。本書の中でヒルトン(悪役な生産管理部長)に言わせると「『改善し続けるんだぁぁぁ』と叫び続ける根性論」のように聞こえます。PDCA(個人的にはデミング博士た改称したPDSA(Check ⇛ Study)の方が好き)やスクラムは継続的改善フレームワークとして定義されています。同じ「Process」という言葉を「処理」と理解するか…「フレームワーク」と理解するかは、大きく違います。ヒルトンの言う「プロセス」は「いいから改善を考え続けろ!」という脅迫でしかないですが、ボブ(善良な工場管理者)が気がついた「プロセス」は「再現性のある手順」なんです。

スクラムには「レトロスペクティブ」という強力なイベントがありますが、振り返ってみるだけでは、改善案が見つからないこともあります。制約理論を知ることで、改善のアイデアをひねり出すヒントがたくさん見つかると思います。思考方法にもプロセス(≒フレームワーク)があれば、もっと多くのシチュエーションを改善できるはずです。思考プロセスについては、本書でも紹介されてはいますが…「ザ・ゴール2」でより詳しく語られていますので…そちらもオススメです。

本書では製造業界の話が描かれており、他業界の方は「うちとは違う」と思うかもしれません。しかしスクラム研修では、ソフトウェア開発に置き換えた説明もしています。本書の続編の「チェンジ・ザ・ルール」はソフトウェア業界の話ですし、多くの続編にたくさんの業界に展開して成功した事例が紹介されています。制約理論はとても普遍的な考え方です。「自分も使える」と信じて読んでいただくと、活用のヒントが得られると思います。

40年前の本なので、「いや…その程度の対策では…立派な飲酒運転では?」なんて思えるシーンもありますが…そこは華麗にスルーしてください。前半にやたら「日本企業にやられてる感」がある記載もありますが、それは「Japan as No.1」な時代に書かれていた本であること、本書が書かれてから15年間…和訳が許されなかったのは、ゴールドラット博士が「部分最適のスペシャリストである日本人が、全体最適を学んでしまうと…世界経済のバランスが崩れるからだ!」と考えたいたからだそうです。個人的には「その10年前に書かれたトヨタ生産方式で、耐一さんは『低成長時代への対策』を語っていたよね」「にも関わらず…失われた20年に突入したのはなぜ?」など…色々と考えてしまいます。

本書はオーディオブックで聞くのもオススメです。